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方言について

郷土の年中行事と方言

郷土の方言

  方言について

 最近、若い人たちの間で。あまり方言が聞かれなくなってきた。というよりは生活の変容とともに、もはや忘れられようとしている。これは行動範囲の広域化・学校教育の徹底・テレビの普及などが大きく影響していることはいうまでもないが、若者たちと地域の年寄りとの交流の機会が少なくなったことも一つの要因であろう。日本人の誰もが互いに共通語で話せるということは確かにすばらしいことには違いないが、年々。方言が忘れ去られ、それぞれの地方の特色が次第に薄れていくことは淋しい限りである。方言には、その土地の歴史と人情があり人々のくらしの匂いがしみこんでいるからである。
 方言は、いわばその上地に住打人々の裸のままの姿であり郷土の先人たちが長い間に醸し出してきた貴重な遺産である。過去のものを反古のように捨ててしまうことは易しいが、人々が口にしなくなりつつある今の時代だからこそ、これを集録・保存しておかなくては、おそらく永久に日の目を見ることもなく消滅してしまうに違いない。そう考えてとりかかってはみたものの、もとより、その上うな文献があるはずもない。致し方なく古老からの聞きとりと僅かな記憶の糸を手繰り寄せながら、とりあえず自己流にどうにか集積・分類してみた。
 こうして集めた方言は約千五百語にもなったが、これらの中には甲奴地域独得のものばかりでなく、備後をはじめ広島県一円で用いられてきたものや、広く関西地方で使われていることばもあり、今ではむしろ共通語化しているものさえ含まれている。また同音異義語、表記の困難な方言、アクセントによって語意の違うことばなどもあってかなり複雑である。したがって分類の仕方についても、なお疑問点が多い。
 備後方言として有名な、「イ」抜け(赤い=アカー)、「エ」抜け(そこへ=ソケー)、「ト」抜け(来いと言った=ケーユータ)などについては、挙げればきりがないので基本型の場合を除いては省略しか。また同じ名詞でも、単文で表すとかなり変化する場合(バスは来ないか=バサーコンガ)などについても煩瑣になるので挙げることを避けた。そのほか幼児語(水=フープ・牛=バーバ)なども数多いため割愛することにした。 しかし、まだまだ不充分で今後、追補訂正しなくてはならないものが多い。これをたたき台としてさらに加除修正し、より確かなものにしていきたいと考えている。また、分類についても品詞別でなく、もっとわかり易い適切な方法が考えられると思うし、それぞれの方言の語源や由来についても、残された重要な課題である。これらのことについて、多くの方々のご教示を切にお願いしたい。
 終わりに、今回の方言集録について、梶川寿楽会の岡本諍記・向井頼幸の両氏をはじめ、多数の皆様方の貴重な資料とご意見を賜ったことに対し深甚な謝意を表する次第である。   荒木 克